生前の記憶(1)
私は、前世ではただの猫でした。
細かいことは、なにも覚えていませんが、亡くなる少し前まで、老夫婦に飼われていました。
135歳でその世を去るとき、尾で魂が2つに分かれて妖怪化しました。面白かったので、そのまま近くを通りがかった人間の男性の守護霊として、その男の生涯を見守りました。
やがて、その男も亡くなり任務を全うした私は天界へ導かれ、私が亡くなった山の神と出会うことができました。
神「お前が、わしの山で亡くなった猫又だね。話は聞いているよ。随分長生きしたそうじゃないか。」
私「ありがとうございます。」
神「ええと…そのあとは、人間の男に憑いたんだね。その男は知り合いかい?」
神は、私の履歴書をペラペラと捲りながら尋ねました。
私「知らない人でした。」
神「うちは、えれぇ険しい山だから人間が通るなんてめったにねぇんだけぇどなぁ?おめぇ、誰に憑いたんだ?それ人間か??」
私「私を看取った主人と似てたから、てっきり人間だと思ってたんだけどなー。(アッレレー??」
そもそも、135歳のご老体で山で亡くなるなんておかしいだろうと神様に大変心配されました。心配されましたが、もう私は亡くなったのです。考えても仕方ないという結論に至りました。
神「現世で大往生に…守護霊としての実務経験もあり…ふむ、何も問題はない。猫又よ、わしの眷属として修行せんか?」
私「けんぞくとは、なんですか?」
神「簡単にいうと、わしの弟子みたいなもんだ。」
私「私は神になれるのですか?」
神「修行次第だな。お前は妖怪だが、同時に神の使いとしての素質がある。」
私「そうですか…でも私は人間になりたいです!」
神はギョッとした。
神「人間になるだなんて、とんでもない!!」
私「どうしてですか!」
神「お前は、現世よりも此方(天界)寄りの魂となったのだ。人間に…なれなくはないが……大きな代償がでてしまう。それに、何故そんなに現世にこだわるのだ。何故、人間になるというのだ?」
私「面白かったです!!!」
私の意外な回答に、神は目を丸くしました。
私「人間の世界は面白かったです。ご主人も優しかったです。私は、ご主人のような人に憑いて恩返しがしたかったのです。でも、妖怪化した私は、相手を選ぶほどの妖力がありませんでした。でも、その代わりたくさんの景色を眺めました。亡くなる直前までは、ずっと同じ景色でしたが、憑いた後は色んなところへ連れて行ってもらえました。今度は、私が自らの足で各地へ赴きたいのです。そしてご主人の生きた世界のことをよく知りたいのです。」
私の意志を聞いて、神は目を細めて言いました。
神「そこまでいうなら止めはせん。しかし、お前の前世は猫だった。人間として生まれ直すのは本来むずかしい存在だ。人間は人間として生まれ直し、猫は猫として生まれ直すのが道理だからな。」
私「それでは…。」
神「しかし、お前は生前100まで生きた。神としての力は微力ながらある。残念ながら、神は神の魂をいじることは禁忌とされている。だから、わしがお前にできるのは現世に送り直すことだけだ。」
私「どうすればいいのですか?」
神「わしがいじることはできないが…自分で創るなら許されている。創り方は、わしが教えてやろう。」
私「ありがとうございます!!」
こうして、私は現世へ生まれ直すために、自ら転生の準備をすることになったのです。
※この話にはフィクションが含まれます。
※神・眷属などの用語がでてきますが、あくまで筆者の世界観での表現なので、実際のものとは意味が異なります。